波浪日報

元祖日の丸軒


 夕刻からの打合せの後、撮影の仕事を終え、夜半に移動。
 途中、真夜中に近かったが遅い晩御飯をとることになった。

 上司夫妻が車を止めたのは環七沿いの摩訶不思議な店だった。
 中級ユーラシア料理「元祖日の丸軒」。
 名前からしてすでに怪しいが、そのたたずまいも十分過ぎるぐらいに怪しい。
 狭くて急な階段を二階へと上がると、70年安保時代の香り漂う、薄暗く時が止まった空間があった。
 煤けたインド風の装飾品、ひび割れたステンドグラス、いびつな感じのする手作り人形が並ぶショーケース、横尾忠則の版画の本、鈴木清順の映画のポスター、今にも落ちてきそうな天井から下がったスチール製のファン(元は3枚羽だったのだろうが、今は2枚しかついていない)。
 そして、きわめつけは店の主人のアンドレさんだ。
 白いワイシャツに黒いスラックス、細身の体に昔のかまやつひろしのようなおかっぱがちょっと長くなった黒髪、青白い顔色、ミックジャガーのような下唇・・・国籍不明、年齢不詳、正体不明を極めたら、こういう人物になるのかもしれない、と思わせるような風貌なのだ。

 久しぶりに立ち寄ったという上司夫妻の説明によると、店の内装もアンドレさんも、最初に来た時(約20年前)からまったく変わっていないという。
 店の内装はともかく、アンドレさんに関して言えば、もしそれが本当ならMIBを呼んだ方がいい。
  
 そして、「中級ユーラシア料理」のディナーの内容だが、アンドレさん自慢の一品、アラブ料理のターメイヤ(こげ茶色のコロッケ状のもので中は鮮やかな緑色、中身はニラとキャベツとそら豆らしい)をはじめ、自家製チーズと豆のカレー(かなりスパイシー)、海賊おじや(トマトベースの海鮮リゾットだが、米から炊いたのではなくごはんを煮たものなので、名前通り「おじや」の食感)、アンチョビのピザ(甘いパンのような生地は自家製らしい)を注文した。
 さすがに「中級」というだけあって、特別美味しいというわけではないが、不味いわけでもなく、どれをとっても不思議な感じの食べ物だった。
 タフな胃腸を持つ上司夫妻は、デザートに丸ごと一個の焼きりんごと丼サイズのミルクプリンを注文して平らげていたが、さすがに午前1時の晩餐ともなると、私はすでにいっぱいいっぱいで、シナモンたっぷりの焼きりんごを一口食べただけでギブアップしてしまった。

 それにしても、アンドレさんの怪しさは突出しているが、そのアンドレさんの記憶にしっかり残っていた我が上司夫妻もなかなかなものだと思う。

 「ダイジョウブ、ちゃんと覚えてまちゅよ、猫のセンセイでしゅね」

 アンドレさん、日本語の発音もちょっと怪しいのだが、はっきりとそう言っていた。

 かくいう自分も、得体の知れない人物道を極めてくださいというコメントを先月いただいたばかりである。

 お店やアンドレさんのことばかりを怪しい怪しいと言っていたが、元祖日の丸軒の深夜の晩餐、客観的に見ると客の方もかなり怪しかったのではないだろうか。
 
2005年05月13日(金) No.77 (雑記)

No. PASS